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【終日春夏の完全犯罪】零

完全シリーズ三部作。
とは言っても予定は未定だが。
まずはうちの新キャラより。

***

だかだかだかだか。
ばん。
だかだかだかだか。
ごん。
だかだかだかだか。
がん。

痛い。
一生懸命走ってぶつかって転んでひっくり返って。
それでも必死に逃げるのは死にたくないからだ。
捕まったら死ぬ。
あの歪な腕に絡め捕られて押し潰され引き裂かれる。
嫌だ嫌だ嫌だ。
俺はまだ死にたくない。
だから走る。
どんなに無様な格好になったって俺は生きるために走る。

べちゃん。

またスッ転んで蛙が潰れたみたいな音がした。
その勢いでサングラスが吹っ飛び、俺は慌てて辺りを探った。
けれどサングラスは見付からず、ただただ焦りが募るばかり。
あれがなかったら、俺は引き裂かれるよりも耐え難い苦痛で死んでしまうに違いないだろうから。
早く、早く見つけて探さないと。
俺は、奴に。

「やあ、キミが探しているのはこいつかな?」

カラン、と音がして、手に探し求めていた物が滑ってきた。
けれど俺は動けなかった。
俺は見てしまった。
サングラスをかけずに、裸眼で、目の前にいる男を見てしまった。
青い髪。右が血のように紅い目。小柄な肉体に歪な獣の右腕。
異常だ。
見るからに異常な体だ。
どちらかといえば可愛い顔つきの少年の制服から、身の丈はありそうな毛むくじゃらの腕が生えている。
腕は熊のように巨大で、肘からは太い骨がつき出していて、真っ黒な鋭い爪が五つついていた。
そこからぽたりぽたりと血が雫になって落ちていた。
人を殺した証だ。

「ああこれね。しょうがないじゃない、正当防衛だったんだよ。向こうがぼくを殺そうとしたんだからさぁ…ほら見てよこの傷痕」

へらへら笑う男は巨大な腕を俺の目の前に引き摺り出した。
見ればそこには数本の切り傷があり、だくだくと血が流れている。
それは深く抉れており、傷痕の奥に白い骨が見え隠れしていた。
しかし、すぐにその穴は内側から盛り上がる。
気が付けば、そこは既に塞がっていた。
どこに傷口があったのか、血痕がなければわからないくらい、綺麗に塞がっていた。

「すぐに塞がっちゃうんだけどねぇ…一応、痛いんだよ、これ。ま、ビビっちゃってるだろうからキミにはわかんないか」

寂しそうに口元を歪める異形の男。
けれど、すぐにまた元のようにへらへら笑い出す。

俺は、そいつから目が離せなかった。
いや、最初からずっと離していなかった。
そいつの髪の色も、真っ赤な目も、もっと言えばその右腕も。
全て、今の俺には、見えていなかった。
それよりも衝撃的だったのはそんな外側の問題ではなくて。
むしろ、中身の問題。

「あんた…」
「ん?」
「どうして…どうして、あんたは、そんな…」

震えは止まっていた。
恐れも消えていた。
ただそこにあるのは、疑念。
何故だ。
何故、そんな異形でいながら。

「どうして、あんたは【普通】なんだ…!」

男は面食らったように目を丸くして、口をぽかんと開けていた。
彼は呆然として、それから、嬉しそうに笑って、


「だってぼく、ただの男の子だもん」


腹に衝撃。
体が吹き飛ぶ。
壁に衝突。
横転。
床にキス。
胃の熱さ。
嘔吐。
歪む視界。
ブラックアウト。





これが、終日春夏の、普通でくだらない物語の幕開けだった。



***

ラノベみたいに動きのある文章書いてみたいです。
普段ぼくはつらつら言葉ばっかり書いている気がする。

2009/04/27
by samoyed0 | 2009-05-13 14:39